SIerと受託開発企業って何が違うの?
IT業界の用語とか構造とか、複雑でよくわからない…
このような疑問を持つ人に向けて、独立系SIerで働いていた筆者が「SIerと受託開発の違い」をわかりやすく解説していきます!
- 結論:SIer≠受託開発
- SIer:システムの企画や構築、設計、開発、保守など全てを担当
- 受託開発企業:システムの開発、テスト、納品がメイン
ただしSIerの中には、開発からテストまでの「下流工程」を専門とする会社もあります。
さらにはSIerも受託開発企業も、ぜんぶ一括りにして話す人も…
こんな感じでかなりあいまいな表現として使われているため、IT業界に詳しくない人は非常に混乱しやすいです。
そこで本記事では、「SIerにはどんな種類があるの?」「下流SIerは受託開発企業と一緒?」といった、一歩踏み込んだSIerと受託開発企業の違いを解説していきます。
さらに記事の後半では、SIer業界の”闇”とも呼ばれている「多重下請け構造」の問題についても紹介しています。
ぜひ本記事でSIer業界について詳しく知ってくださいね!
SIerと受託開発の違い
まずSIerと受託開発の違いについては、「会社」か「契約」かという意味で分かれます。
- SIer:
クライアントの要望に基づき、システム開発を行う「会社」のこと - 受託開発:
企業からの依頼を受けてシステム開発を行う「契約」のこと
混同されがちですが、「SIer」は会社の形態、「受託開発」は契約の種類だと、まずは理解しておきましょう!
次の項目から、もう少し詳しく解説していきます。
「SIer(エスアイヤー)」とは?
「SIer」とはシステムインテグレーター:System Integrator の略であり、システムの企画・設計・開発・保守などを含めた一連の工程を請け負う企業を指します。
そこから分業制度が一般的となった今、
- 企画や設計をメインとする「上流工程」専門のSIer
- 開発や保守を担当する「下流工程」専門のSIer
といった具合で、会社により専門分野が異なるケースがよくあります。
ちなみSIerは、次のような言い方もされます。
- システムインテグレーター
- SI -エスアイ(システムインテグレーションの略)
- ITベンダー
これらはほとんど同じ意味なので、理解しやすい呼び方で覚えるといいですね!
「受託開発」とは?
IT業界における受託開発とは、システムやアプリケーションの開発依頼を引き受ける「契約」のことです。
基本的に、民法で定められている”請負契約”に基づいて業務を遂行します。
請負契約とは?
請負契約は民法で次のように定義されています。
(請負)
第六百三十二条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
(報酬の支払時期)
第六百三十三条 報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第六百二十四条第一項の規定を準用する。
要約すると、「依頼を引受けたら必ず完成させ、納品時に報酬が発生する」という契約ですね。
受託開発では、自社のオフィスで働く「社内SE」が一般的な働き方になります。
中には客先常駐のケースもあり、僕が所属したSIer企業では、99%が社内SEで、残りはクライアントのオフィスに出向する働き方でした!
SIerと受託開発企業は一緒なの?
「SIer」と「受託開発企業」、どちらもクライアントと請負契約を結んで業務を遂行する点で一緒です。
しかし厳密には意味が異なり、特にエンジニア界隈では両者を使い分けて話が進むケースも珍しくありません。。。
そこで本項目では、SIerと受託開発企業の違いを詳しく解説していきます。
SIerの特徴は「インテグレーション(統合)」
SIerは、システムの企画や設計、構築、開発、運用といった全行程の業務に加えて、複数のシステムを統合(インテグレーション)する役割を持つ会社でもあります。
【具体例】
- 金融業界のシステム統合
- 物流業界の複数システムの統合
- 小売業のECサイトと店舗POSシステムの統合
一方で受託開発企業は後述する通り、「開発、テスト、納品」に特化している傾向があります。
この点に注目すると、両者の大きな違いに気づけるのではないでしょうか。
受託開発企業は「開発〜納品」を指すことが多い
受託開発企業は「お客さんに頼まれた範囲内の開発」に特化している傾向があります。
【具体例】
- C向けモバイルアプリの開発
- 自社(クライアント)の業務効率化システム
- ECサイトのカスタム機能開発
「このようなソフトウェアを作ってください!」というクライアントの依頼に応じて、必要な機能を開発・納品する会社が、一般的には受託開発企業と呼ばれていますね。
【知っておきたい】SIer3つの種類
SIerは次のように、担当する業務範囲や役割に応じて、大きく3つの種類に分かれます。
【この項目の目次】
それぞれの特徴を詳しく解説していきますね。
①「上流工程専門」のSIer
上流工程を専門とするSIerは、たクライアントに近い開発工程を担当します。
具体的には上記画像のように、クライアントへの営業やヒアリング、システムの企画や要件定義、設計といった分野です。
この分野を担当する会社は、「大手SIer」「元請け」「ゼネコン」なんて呼ばれてたりしていますね。
上流工程を専門とするSIerは、システム開発における業務の全体像を把握し、どのようなシステムにするかを決定する重要な役割を担っています。
顧客と直接やりとりし、潜在的なニーズも理解しながらシステムを計画していく力が求められますね。
②「下流工程専門」のSIer
下流工程を専門とするSIerは、開発やテスト、保守といった部分を担当しています。
「サブコン」「下請け」なんて呼ばれたり、さらに階層が下がれば『孫請け』『n次請け企業』と表現することもあります。
下流工程のSIerは、上流のSIerから部分的な業務を委託されることが多いです。そのため多重下請け構造の一部となり、納期が短くて報酬が低い傾向があります。
(多重下請け構造については記事の後半で詳しく解説します!)
③「全部を1社で完結させる」独立系SIer
「独立系SIer」は、これまでに説明した「上流」も「下流」も全て自社で完結させる企業です。
クライアント企業と直接的に契約を交わし、システムの全工程に携わることができる独立系SIerは、一連の工程をワンストップで提供でき強みがあります。
全体を通じてシステム開発のスケジュールからの品質を管理しやすい点もメリットです。大手に依存せず、独自の顧客基盤を持つ企業が多いですね。
下流工程専門のSIerなら受託開発企業と一緒?
下流工程専門のSIerって、受託開発企業と全く同じ?
一緒です!……と言いたいところですが、実は微妙に違ってくるのです。。。
下流工程を専門とするSIerは、「金融業界のシステム」「物流業界の複数システムの統合」といった大手SIerのプロジェクトの一部を担当します。
なのでプロジェクト全体の流れ・システム全体の構造を理解する意識が求められるんですね。
【下流工程SIerの具体的な業務】
- 金融業界のシステムの一部機能開発
- 物流業界の複数システム統合におけるテスト業務
- 小売業のECサイト+店舗POSシステムの保守
一方で「受託開発企業」は、お客さんから依頼された範囲内で完結した開発を行うことが多いです。
どちらもメイン業務が「開発」「テスト」になりますが、システムの規模感や業務の取り組み方が異なる違いがあるんです…
少しややこしい話をしましたが、
「クライアントの要望に基づいて開発〜納品するのが受託開発企業」
「元請けの指示に基づいて開発〜納品するのが下流SIer」
このように覚えておくとスムーズです!
SIerは受託開発しかやらない?
「SIerは受託開発だけの会社」というイメージがありますが、必ずしもそうとは限りません。
受託開発を主な事業とするSIerが多い一方で、自社開発やSES(システムエンジニアリングサービス)、IT派遣など複数の事業を展開している会社もあります。
実際に僕は独立系のSIerで働いていましたが、自社製品をクライアントに販売する事業も持っていました!
過去に取材したエンジニアの中には、「受託開発がメインだと聞いて入社したら、実は人材派遣事業が主軸だった」という事例もあるので気をつけたいです。
特にSIerに就職・転職したい人は、SESや人材派遣事業を持ってないIT企業に入社すると間違いないですね。
【知っておきたい】SIer業界の問題点・多重下請け構造
SIer業界で働きたいと考えている方には、「多重下請け構造」という独特の業界構造を理解しておくことが重要です。
多重下請け構造とは、あるプロジェクトが最初の請負会社から次々に下請けに出され、さらにその下請けが別の会社に依頼する形で続いていく構造を指します。
大手SIerが案件を受注して一部をサブコン(下請け企業)に発注し、そのサブコンがさらに別の下請けに依頼するという流れです。
こうした構造には次のような問題点があります。
それぞれ解説していきます。
問題点①:下請け企業の賃金
下請け構造が深くなるほど、報酬も下がっていく傾向があります。
下流工程を担当する下請け会社ほど「マージン」として利益が引かれていくため、現場のエンジニアに支払われる給料が低くなってしまうのです。
中には9次請けまで下請けが続くこともあるといわれ、エンジニアの給与が少なくなる原因となっています。
このように同じSIer業界でも、元請けや一次請け、三次請けや四次請けといった商流の違いで、年収とスキル面で大きな差があります。
特に希望がなければ、元請けや一次請けの会社でを強くおすすめします!
なるべく早い段階で上流工程の経験が積めれば、その分年収アップ・キャリアアップも早くなりますよ!
大手SIer求人が多いエージェントはコチラの記事で解説!
問題点②:下請け企業の納期
多重下請け構造、次の問題点は「納期の柔軟性」です。
システム開発の現場では、クライアントの要望に応じて「仕様変更」がしばしば発生します。
クライアントに強く提案できる元請けSIerであれば、仕様変更の際は上流から下流まで”エンジニアファースト”な納期を設定してくれるでしょう。
一方で、クライアントから仕様変更を受けても「納期の変更」を打診でないような元請けSIerだと、下流工程のエンジニアは納期の延長なしで追加業務を押し付けられるといった状況が発生しやすくなります。
下流SIerは、元請けSIerの対応次第でブラック労働を強いられるリスクがあるのです…
問題点③:責任の所在
多重下請け構造における「責任の所在が不明確」という問題点もあります。
元請けと複数の下請けが関わる多重下請け構造では、納品後にシステムの欠陥が発覚した場合、どの段階で問題が起きたのかを特定しづらくなります。
責任の所在があいまいとなり、各企業が責任を押し付け合う「責任転嫁」の状況が生まれます。
よってトラブルの原因究明が遅れ、発注元のクライアントとの溝が深まり問題が拡大する恐れがあります。
問題点④:品質の担保
多重下請け構造では、以下の理由から品質管理が非常に困難になります。
【多重下請け構造で品質管理が困難な理由】
- 責任の所在が不明確になる
- コミュニケーションエラー・伝達ミスが起こりやすい
- 技術力が低下する
多層的な構造によって、先ほど紹介した「責任の所在が不明確」の問題だけでなく、情報伝達ミスやコミュニケーションエラーによってもシステムに欠陥が生まれやすくなります。
さらに下請け企業となれば部分的な作業しか執り行わず、システム全体を見据えた開発やテストが実行されにくいのです。
これら「人的な影響」「技術的な問題」により、多重下請け構造ではシステムの品質が低下しやすい問題があるのです。
対策
エンジニアとして働く際は、できるだけ一次請けや二次請けの企業で働くのが理想です。上流企業で働けば、業務内容や給与の問題が改善されやすくなりますよ!
さいごに|SIerで受託開発するなら大手SIerがおすすめ!
本記事では、SIerと受託開発の違いについて詳しく説明しました。
IT業界で安定したキャリアを築きたいと考えているなら、大手SIerでの受託開発が最適な選択肢です。
大手SIerは、多重下請け構造の上流に位置するため、プロジェクト全体を管理しやすく、納期の調整や報酬面でも安定しやすい魅力があります。
スケジュール的にホワイト労働になりやすく、年収も一回り違いますから、上流企業と下流企業では、ワークライフバランスから生涯年収まで「段違い」で変わってきます。
さらに大手SIerで働けば、
- システム開発の全体の流れ
- 上流から下流までの全工程
- 自分の得意・不得意な工程
これら「エンジニアキャリアに欠かせない成長機会」が得られ、さらに自分の得意・不得意も実感できます。
スキルアップ・キャリアアップしやすいのは、大手SIerならではのメリットです。
受託開発を考えている人は、間違いなく大手SIerでのキャリアがおすすめですよ!
大手SIer求人が多い転職エージェントは以下の記事で紹介しているので、自分に合ったSIer企業を見つけて、安定したキャリアを目指しましょう!
コメント